マイルストーン

2022年、フォックスファイヤーは40年を迎えます。1982年にフィッシングベストを生み出しアウトドア・クロージングカンパニーとしての歴史をスタートさせました。同年にリリースしたのは、30デニールの極薄リップストップナイロンを使用した「エマージェンシーブレーカー」でした。パラシュート用に作られた強度に優れた超軽量ウインドブレーカーの背中に、大きくFoxfireのロゴをプリントしました。鮮やかなカラーリングとシンプルなデザインが人々の心を掴み大ヒット商品になりました。シンプルで機能的というFoxfireの方向性を世に示し、アウトドアクロージングブランドとして始動したのです。

パラグライダーをアップサイクル

40周年の節目で改めて原点に立ち返り、そこに現代ならではの新しい価値観を加える。この志から生まれたのがアニバーサリーアイテムとしてリリースする「40thフライングエマジャケット」です。パラグライダー発祥の地ヨーロッパでは、1985年がパラグライダー元年とされています。以降、パラグライダーの性能は飛躍的に向上し、上昇風を利用して100km以上のロングフライトも可能で、最も身近なスカイスポーツとして世界中で楽しまれています。

パラグライダーに使用されるリップストップナイロンは独自の進化を続け、両面にコーティングを施した27g/㎡という超軽量素材も使われています。正確な数字は公表されていませんが、世界中で年30,000機ほどのパラグライダーが製造され、毎年800~900機が日本に輸入されていると考えられています。

パラグライダーは紫外線や湿度、圧縮などの使用環境によりコーティングがダメージを受けてしまうと、飛行性能や安全性が低下してしまいます。その目安は300時間とされていますが、フライトしている時間だけでなく、パラグライダーを広げている時間を含んでいます。従って多くの愛好者は3~4年毎に新しいパラグライダーに乗り換えています。それでは古いパラグライダーはと言うと、多くが廃棄されず各自が自宅で保管しているのです。それぞれのパラグライダーには、たくさんの思い出が詰まっているからです。

他方でティムコ/フォックスファイヤーでは、お届けした製品と長くお付き合いいただくために修理の体制を十全に整えてきました。何年も愛着を持って使い続けた道具や服には、たくさんの思い出が刻み込まれ、長くお使いいただくほど愛着は深いものです。このフィロソフィーを「40thフライングエマジャケット」に反映させ、使われなくなったパラグライダーをアップサイクルして新しい息吹を与える。役割を終えたパラグライダーはオーナーの手元を離れ、我々が形を変え新しいオーナーの元へ届ける。アップサイクルという新しい試みへのチャレンジです。

道のりは苦難の連続

アップサイクルというアイデアはユニークでしたが、サンプルを仕上げる過程には予期せぬ困難がたくさんありました。自然環境の保全と地域経済の活性化を一体的に取り組む「世界に誇れる環境先進都市」を目指す京都府亀岡市では、アパレル分野でサステナビリティを牽引しているTHEATRE PRODUCTS(シアタープロダクツ)社と、かめおか霧の芸術祭でのイベントをきっかけにタッグを組んで、古いパラグライダーのアップサイクル事業「HOZUBAG(ホズバッグ)」を展開しています。

かめおか霧の芸術祭の情報発信基地となっているKIRI CAFÉ(キリカフェ)に隣接するHOZUBAG Mfg.(ホズバッグマニュファクチャリング)では、全国から役割を終えたパラグライダーを集め、解体-裁断拠点を作り、バッグに作り変えることで地上資源として循環するプロジェクトなど、多彩なアプローチで資源が循環する社会を目指すとともに、地域の活性化、雇用の創出にも取り組んでいます。その活動全体を「HOZUBAG(ホズバッグ)」という一つのブランドとして取り組む彼等に加わり、その延長線上で「40thフライングエマジャケット」を具現化することができました。彼等への敬意と感謝の気持ちを、内側に縫い込まれた「ホズバッグ」のラベルで確認頂けます。

日本で販売されているパラグライダーブランドは30社ほどあり、各社10~15モデルがありそれぞれ2~6カラー展開、さらに飛行重量毎に5~6つのサイズがあります。パラグライダーの内部構造はセルという気室で区切られ、性能の差により40~100のセルで作られています。このセルの幅は翼の部位で異なり、繊細な縫製技術でパラグライダーのアーチを作り出しています。つまり集められた素材としてのパラグライダーは千差万別、ふたつとして同じものがありません。

亀岡で内部構造を取り除いた後に、フォックスファイヤーに届けられたパラグライダーを広げ、パーツ点数が12片ある「40thフライングエマジャケット」のどこに、どのカラーリングを使うかをイメージして一枚一枚パターンに沿って切り出していきます。当然、1着ずつすべて色や柄の出方が違います。

この作業は我々の想像をはるかに超えた、とても手のかかる作業となりました。大まかに切り出したパーツを香川県小豆島にある縫製工場に送り、熟練の縫製職人が正確に切り出し一着のジャケットに仕上げます。大量生産・大量消費にシフトしている中、まるでガレージカンパニーのような作業工程です。40年前、最初のフィッシングベストは複雑な縫製工程故、請け負ってくれる工場がありませんでした。そんな中、秋田県の寒村の納屋を改造した小さな工房だけが我々の物作りを受け入れてくれました。40年の時を経て、同じような出会いが我々の新しいチャレンジを支えてくれました。

譲れないこだわり

小豆島で縫製されたジャケットは、フェリーに乗せられ新岡山港に戻り、港近くにあるプリント工場に持ち込まれます。今回入れられるFoxfireのロゴは周年記念として旧ロゴとなり、この製品のアイデンティティです。通常の生産プロセスでは、ロゴはパーツの状態でプリントしてから縫製に回ります。ところが一枚一枚パーツが異なるので、縫製後にプリントするしか方法がありませんでした。ところがここでも問題が生じました。背中の両側にパラグライダーの縫製があり、ロゴの両端にインクが完全に乗らない場所があることが判明しました。

「エマージェンシーブレーカー」へのオマージュとしてスタートしたからには、ロゴのサイズも重要な要素です。そこで、敢えてインクの乗りの悪さを甘受し、製品の味とすることを決断しました。フロントのプリントにも拘りがあり、細かいプリント解像が要求される旧ロゴシンボルの「スプルースツリー」をプリントしました。平面に施す通常プリントと異なり、微妙に異なるカーブを持つジャケットにプリントする作業は、数倍の注意と手間を要しました。通常と異なる面倒な工程に対し、職人の技術が我々の思いを形にしてくれたのです。

40周年を記念して企画した「40thフライングエマジャケット」は、当初の予想を超える複雑な作業になりました。その課題をひとつひとつクリアして生まれた製品には、一着一着に個性があり、それに関わった我々にも愛着があります。全てが手作業なので大量生産はできませんが、機会があれば是非手に取って見て下さい。次の時代に向けた我々の物作りの精神が伝えられると信じています。