天魚、または雨魚と書いてアマゴ。その名前からは神話的ニュアンスを感じずにはいられない。天(日)と雨(水)。それは稲を育む太陽と水の恵みを大切にしてきた日本の自然観においては、根本的で絶対的、そして二項対立的なエレメント。その2つのエレメントの相互作用から生まれる恵みを受けて具体化されたものがアマゴ、という解釈にはロマンがありすぎるだろうか。そう考えると、サクラマス(ヤマメ)の日本固有亜種とされるアマゴのトレードマーク「朱点」が日の丸を想起させるのも決して偶然とは思えない。
西日本/東日本、そして太平洋/日本海という日本人になじみのある図式的な地理感覚が、アマゴ/ヤマメのすみ分け分布に当てはまることも興味深い。無駄を省いた東日本の侘び寂びがヤマメなのに対して、朱点により雅さが加わるのが西日本のアマゴ。そんな地方の風土美意識にも重なるのも、単なる偶然の一致とは思えない。
このようにアマゴは単なる渓魚ではなく、日本人の意識や感性を映し出す魚でもある。とっぴで大胆な仮説だが、もしかしたら有史以前から食料として価値を置かれていたアマゴ(とヤマメ)という渓魚の姿を通じて、日本人の意識や感性が作られてきたのかもしれない。そんなロマンさえも感じる魚だ。
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サケ目サケ科サケ属
Oncorhynchus masou ishikawae
全長20~30cm(降海型40~50cm)。ヤマメと同じく背面は青緑色~茶褐色。体側には紫色のパーマークと黒点のほか、円形の朱色斑紋が散在する。この朱点のあるなしでヤマメと区別できる。また、アマゴの降海型はサツキマスと呼び、体側の朱点は消失しないで散在する(あるいは淡くその形跡を残す)。
神奈川県・酒匂川より西の太平洋側、瀬戸内海を囲む近畿、中国地方、および四国と大分県にもともとは分布し、本来ヤマメとは生息域を分けていた。近年では放流によって全国に散らばっている。朱点の数や濃淡は棲む地方や個体によってかなり差異がある。
アマゴは水温20℃以下の渓流域に生息。食性は冬から早春にかけては主に水生昆虫を食べ、その後は陸生昆虫を主に食べる。成長は河川環境によって異なり、1歳で10cmm前後、2歳で15cm前後という川もあれば、1歳で18cm、2歳で30cm前後という川もある。産卵期は10~12月で、産卵後は斃死するものがほとんどだが、河川型は生き残る場合もある。伊勢湾、瀬戸内海などに注ぐ河川では、成長に伴って体が銀色に変わり(スモルト化)、海に下る降海型も存在する。