長谷川 文『スコーロン』フィールドインプレッション

2019.05.27 Update

フィールドワークでも活躍のスコーロンは、肌の弱い子供や女性に最適な防虫メソッド

 

1月中旬、厳寒の凍てつく地元・八ヶ岳から、西表島に飛んだ。雪と氷でひっそりと静まり返った休眠中の森から、鳥たちの騒がしい鳴き声と強い紫外線、湿度にムッとする島に降り立つと、熱気に当てられたようになる。この時期、西表島は雨が多い。真冬にも関わらず生物は至る所で精力的に活動しているようだ。

 

 

日本の最西端に近く、東シナ海にある西表島は生物多様性の宝庫と言われている。今回、琉球大学熱帯生物圏研究センターの植物相調査に同行し、島の中でも殆ど人手の入っていない、手つかずの自然が残る奥地、文字通り「秘境」に入る。この島では、どのような植物が、何処に、どれくらい生育しているか、未知のままのエリアがあるらしい。

 

プロジェクトは西表島の網羅的全島的な植物相研究というもので、西表島に約300の調査区を設置し、すべての植物種を記録、標本の採集、樹木の直径や高さを測定する。同時にDNAを抽出し、遺伝分析も行う予定。これらの調査から、島の生物多様性の成り立ちが明らかになり、次世代への保全の道筋となる、とても重要で大がかりな研究である。

 

 

早朝、海沿いの駐車場から調査用の道具や標本用の資材、飲料水や食料などを大きなパックに詰め出発した。研究主管のN准教授はスコーロンのシャツを、研究員のSさんと自分はスコーロンの薄手のフーディを着用し、沢沿いの踏み跡から山に入った。整備された登山道と呼べる道は非常に少ない。高温多雨の熱帯では植物の生長スピードはとても早く、道は直ぐ植物に覆われる。頭上の空も、太陽光を勝ち取るために伸ばした枝葉で塞がれてしまう。周囲は昼でも薄暗い。強い紫外線が反射した森は黒っぽく見え、飛んでいる小さな虫はちっとも見えなかった。

 

 

突然、むき出しの額にチクっとした刺激があり、触るとぷっくり腫れていた。しまった、殺虫成分の入った虫避け剤をスプレーしないとダメかと考える間もなく、左眼の脇を2カ所嚙まれた。慌ててスコーロンのフードを被り、ジップを引き上げる。蒸し暑かったので、ジッパーを開けて歩いていた。着用していないメンバーは強い虫避け剤を浴びるようにかけている。自分は強い虫避け剤を塗布すると、肌がヒリヒリと酷く滲みるので、抵抗がある。こんなに痛感のある薬剤が、身体に良い訳がない。今回はスコーロンだけで乗り切ってみよう、SCガイドマルチマスクも着用した。

 

 

 

今日中に最奥の調査プロットまで辿り着かねばならない。沢を上流へと辿る以外、登路は無く、ゴム長靴を這い上がってくる虫を落としながら、流れを幾度となく横断し先に進む。とにかく蒸し暑い。この虫は少しでも油断すると、あっという間に衣服の中に潜り込んで吸血する。目に見えるだけ、まだましか。刺された額が熱っぽい。見た目にみっともないのは我慢できるが最も怖いのは、死者も出たという虫による感染症だ。一昨年、原因不明の感染症に罹患して3週間の入院をした。そんな体験を話すと、やはりその手の虫は多いらしく、Sさんはズボンに凄い数の微小な虫が付いたそうだ。体に付いたら、クレジットカードで素早くこそぎ取るのが良いと。

 

 

N准教が地図を見ながら、この支流を辿った先の峰を越えれば、調査区に出れそうだと言う。いよいよ未知のエリアに入るのだろう。期待と少しの緊張を感じながら流れを辿ると、ついに水は消え、傾斜の増した深い森の斜面になった。立木を掴み尾根に這い上がったところ、急に植生が変わり、目前は高さ2mを超すツルアダンの密林になった。ヤブ漕ぎに慣れた自分が先頭を買って出たが、甘かった。空間を埋めるように隙間なく縦横に伸びる、このツル植物は棘こそ痛くないものの、ちっとも前に進ませてくれない。右に左に右往左往しながら僅かばかりの距離を進み、ハクサンボクの木をよじ登って周囲を見渡し愕然とする。一面、ツルアダンの密生する斜面だ。これでは到底、先に進めない。

 

N准教授と相談し、苦労して登った斜面を急いで下り、別の支流を遡ることにした。登り返して分水嶺を超えると、水の流れが逆転する。小さな崖状の小滝を慎重に降りると、イリオモテソウという島の名前を冠した小さな花がたくさん咲いていた。急がないと、調査の時間が無くなってしまう。地図と地形を慎重に確認しながら、どうにか調査区域に辿り着いた。

 

 

調査区では、一定の長さの区画に縄を張り、全部の樹種を挙げ、高さと直径を計測、写真とサンプルをとる。夕暮れまでの時間勝負。水の中にいるヨシノボリや珍しいシダ植物、ランの花に感嘆していたが、のんびりとカメラを構えている時間は無かった。メジャーを持って計測を手伝い、サンプルをS研究員に運ぶ。相変わらず虫は飛んでいるが、刺されていない。物陰で皮膚に嚙みついた虫もいないか服の中も入念に見た。大丈夫なようだ。スコーロン、本当に効くのだな、と効果を実感した。島に着いてすぐ、観光地の滝に薄手のシャツで行ったのだが、服の上からメッタ刺しにあったのだ。このスコーロンの方が生地は薄いのに、刺されていない。サラッとしていて蒸し暑い島ではむしろ快適。フードをかぶれば首もカバーでき、サムホールに親指を通せば手首も隠せる。肌の弱い子供や女性には最適なのでは。

 

 

事前に図鑑を見てきたものの、見慣れない熱帯の常緑樹はちっとも名前が分からなかった。何度も樹種名を教わるが、なかなか覚えられない。野帳の記入に手袋が邪魔だったので、外していたら、指の背を飛んでいる虫に刺されてしまった。ここも腫れるかな、タメ息が出るが、確か指ぬき手袋もスコーロン商品にあったはずだ。戻ったら追加で買おう。そして私の場合、虫避け剤はもう止めにしてよさそうだ。虫対策は大前提、それを衣類でできてしまうことのメリットは計り知れない。

 

 

重くなったサンプルを背中のパックに括り付け、薄暗がりの中を急いで下山した。途中、ごく小さな、白い光の明滅を見た。何だろう?しばらく歩くと、一斉に辺り一面で明滅が始まった。すごい光景だ。ヤエヤマヒメボタルと教わった。美しさに柄にもなく感動したが、1月にホタルの繁殖が見られる西表島は全く異世界なのだと思った。

 

 

 

 


山岳ガイド・長谷川 文(はせがわ あや)

東京都山岳連盟救助隊副隊長、山岳遭難捜索チームLiSSメンバー、日本アルパインガイド協会(AGSJ)所属アルパインガイド、山岳映像カメラマン。国内外の危険な山域での登山サポートや映像撮影の業務を行う一方、山岳事故の捜索救助にも数多く携わっている山岳エキスパート。

 

 

 

【お断り】このレポートは事実に基づいて掲載しておりますが、スコーロンの効果効能は使用環境・条件等により、必ずしも保証するものではございませんので、ご理解のうえご活用いただきますようお願い申し上げます。
※一部具体的な虫の名前を“虫”という表現に置き換えて掲載しています。